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日本版アドバンス・ケア・プランニング

日本版アドバンス・ケア・プランニングの3つの特徴

1. 関係依存性自律(Relational Autonomy)を取り入れた定義と行動指針

自律的な意思決定は、社会的な関係性の中で、周囲の励ましや支援を通じてなされるという関係依存性自律の概念のもとに、意思を言葉にすることを躊躇する人や認知症の患者さんであっても自律的な意思決定が行えるACPを目指しました。

2. 日本版アドバンス・ケア・プランニング=広義のACP

価値観の話し合いは必須であり、現在のケアプランからの連続体として将来のケアプランを話しあうべきというのが、今回の専門家のコンセンサスであり、日本版アドバンス・ケア・プランニングは「広義のACP」を採用しています。

3. エビデンスを踏まえた具体性のある行動指針

医療・ケアチームがタイミングを逃さずに支援できるように、具体的なタイミングを明示し、医療・ケアチームがACPに積極的に関われる仕組みを作りました。

研究概要

日本版アドバンス・ケア・プランニング
に関するコンセンサス研究
本研究はJSPS科研費
  JP18KO7418
の助成を受けたものです
背景

欧米でのデルファイ研究では「年齢や健康の段階にかかわらず、成人が自らの価値観、人生の目的、将来の医療に関する選好について理解し、共有することを支援するプロセス(Sudore RL. et al. 2017; 会田薫子, 2020)」と定義されました。しかしながら、この定義をみると、自らの選好を自分で理解して共有するという自律的な意思決定能力を有するということが前提になっていると読み取れます(会田薫子, 2020.)。

日本では、伝統的に家族中心の意思決定が重視されており、文脈に依存したhigh contextなコミュニケーションが行われるため、意思の表出を好まない人も多くいます。このような文化的背景をもった日本の高齢者が欧米の定義によるアドバンス・ケア・プランニングを行うことは困難な場合があります。さらに、認知症の患者さんや社会的に孤立した人たちも、欧米の定義によるアドバンス・ケア・プランニングのプロセスからこぼれ落ちてしまう可能性があります。

日本の医療・ケア提供者はアドバンス・ケア・プランニング実践に消極的と報告されており(Nakazawa K, et al., 2014)、アドバンス・ケア・プランニングを開始する時期に関して、医師と患者で大きなギャップがあると報告されています(Miyashita J, et al., 2021)。日本のアドバンス・ケア・プランニングに関するエビデンスを取り入れて行動指針を作成し、医療・ケア提供者が具体的にどのように行動するべきか示すことが必要です。

そこで、私たちは、日本の文化や習慣を考慮に入れた日本版アドバンス・ケア・プランニングの定義と行動指針における日本の専門家のコンセンサスを形成するためにデルファイ研究を行いました。

引用文献:

会田薫子. "日本老年医学会「ACP推進に関する提言」の意義ー社会的文化的特徴を踏まえることの重要性." 老年内科2020;2:539-545.

Miyashita J, Kohno A, Shimizu S, et al. Healthcare providers' perceptions on the timing of initial advance care planning discussions in Japan: a mixed-methods study. J Gen Intern Med 2021;36:2935-2942.

Nakazawa K, Kizawa Y, Maeno T, et al. Palliative care physicians' practices and attitudes regarding advance care planning in palliative care units in Japan: a nationwide survey. The American journal of hospice & palliative care 2014;31:699-709.

Sudore RL, Lum HD, You JJ, et al. Defining advance care planning for adults: a consensus definition from a multidisciplinary Delphi panel. J Pain Symptom Manage 2017;53:821-832 e821.


Advance Care Planning, ACP
欧米の定義
年齢や健康の段階にかかわらず、成人が
自らの価値観、人生の目的、将来の医療に関する
選好について理解し、共有することを支援するプロセス
自律的な意思決定能力を有することが前提

日本の文化的背景

家族中心の意思決定
家族に迷惑をかけたくない
High Contextな文化
口に出さなくても、分かってほしい
日本の文化的背景をもった
日本の高齢者
自律的な意思決定能力を前提
とした欧米の定義では
ACPを行うことは困難

認知症の患者さん

社会的に孤立した人

日本の医療・ケア提供者側の問題

医療・ケア提供者の消極性

医師
患者が終末期に近づくまで
ACPの開始時期についての
ギャップ
患者
健康期から
ACPを始めたい
具体的誰に、何を、いつ
ACPを行えばよいのか
医療・ケア提供者に提示する必要性がある

日本の文化や習慣を考慮にいれた日本版アドバンス・ケア・プランニングを策定する必要がある。

目的

日本の文化や習慣を考慮に入れた
日本版アドバンス・ケア・プランニング
の定義と行動指針の策定


日本におけるACP実践者・研究者からの
幅広い意見を収集、修正デルファイ法を用い、
コンセンサスの形成を行う一方で、
専門家間の意見の不一致をも明らかにしたい。

方法
修正デルファイ法
第1ラウンド
先行研究のレビュー
コアメンバーへのインタビュー
原案作成
第2ラウンド
第一回 適切性評価のためのウェブ質問票調査
第3ラウンド
第一回 コアメンバーによるテレビカンファレンス
第4ラウンド
第二回 適切性評価のためのウェブ質問票調査
第5ラウンド
第二回 コアメンバーによるテレビカンファレンス
第6ラウンド
患者・患者家族によるディスカッション
第7ラウンド
最終コンセンサス、順翻訳・逆翻訳による英訳
Culturally Adapted Consensus Definition
and Action Guideline: Japan's Advance Care Planning
J. Miyashita, S. Shimizu, R. Shiraishi, M. Mori, K. Okawa, K. Aita, S. Mitsuoka, M. Nishikawa, Y. Kizawa, T. Morita, S. Fukuhara, Y. Ishibashi, C. Shimada, Y. Norisue, M. Ogino, N. Higuchi, A. Yamagishi, Y. Miura and Y. Yamamoto

J Pain Symptom Manage. 2022 Dec;64(6):602-613

Accepted: September 8, 2022
Published: September 14, 2022
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jpainsymman.2022.09.005

※このウェブページの内容を引用される場合(日本語、英語のどちらの場合も)、上記英文論文を出典元として記載ください。
問い合わせ先:
福島県立医科大学白河総合診療アカデミー
宮下淳